補助金の公募が出ると、社内でこんな会話が始まります。「今なら半分出るらしい。何か申請できるものはないか」。気持ちはわかります。ただ、この順番で決めた投資は、あとから効いてこないことが多い。制度が先にあって、使い道を後から探しているからです。
順番を入れ替えるだけで、判断の質は変わります。先に決めるのは、何を減らすか。補助金は、そのあとに来る資金の話です。
「半分出るから」は判断の理由になるか
補助率1/2の制度で、300万円のシステムを入れるとします。150万円が戻る。お得に見えます。けれど、実際に起きることを並べてみると、話は単純ではありません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 導入費用 | 3,000,000円 |
| 補助金(1/2) | −1,500,000円 |
| 自己負担 | 1,500,000円 |
| 毎年かかる保守・利用料 | 年 360,000円(補助の対象外) |
| 社内で使えるようにする手間 | 担当2名 × 3か月 |
補助金が効くのは、いちばん上の一行だけです。毎年の運用費と、社内の労力には効きません。使われないまま置かれたシステムは、150万円が戻ったとしても、毎年36万円を払い続ける負債になります。「半分出るから」で決めた投資が痛むのは、たいていこの部分です。
先に決めるのは何を減らすか
順番を逆にします。制度を探す前に、社内でいちばん時間を食っている仕事を書き出す。手順が決まっていて、判断がほとんど入らないものが候補です。この種の作業は、省力化・自動化に使える制度が想定している範囲とだいたい重なります。
そして、時間を人数に置き換えます。フルタイム1人の年間労働時間は、およそ2,080時間。この数字で割ると、どんな作業も「何人分か」に翻訳できます。
| 仕事 | 年間の時間 | 何人分 |
|---|---|---|
| 受注データの転記 | 960時間 | 0.46人分 |
| 請求書の作成・照合 | 620時間 | 0.30人分 |
| 問い合わせの一次対応 | 480時間 | 0.23人分 |
| 合計 | 2,060時間 | 約1人分 |
3つ足すと、およそ1人分。ここが見えて初めて、300万円という金額が高いのか安いのかを判断できます。
金額で比べると「高い・安い」で議論が止まる。人数で比べると「じゃあ、どれから減らすか」に変わる。同じ投資でも、物差しを替えるだけで話の向きが変わります。
補助金は、順番を早めるための道具
こう考えると、補助金の役割がはっきりします。やるかどうかを決めるものではなく、いつやるかを前倒しするための道具です。
減らしたい仕事が決まっていて、投資の見合いも取れている。ただ今期は資金が厳しいから来年以降にしよう——という案件が、補助金があることで今年に動く。これが本来の使い方だと思います。逆に、補助金がなければやらなかった投資は、補助金があってもやらないほうがいいことが多い。判断の基準はいたって単純で、補助金がゼロでもやるかと自問してみることです。
もうひとつ、前倒しの道具として使うなら押さえておきたいのが支払いの順番です。多くの制度は事業が終わってからの入金で、いったんは全額を自社で立て替えることになります。入金までのお金をどうつなぐかまで含めて見ておくと、時期の判断がしやすくなります。
計画書が書きやすくなる、という副産物
先に「何人分減るか」を測っておくと、申請書の中身も自然に埋まります。審査で見られるのは、機能の説明ではなく、この会社の何がどう変わるのかだからです。
| 測っていないと | 測ってあると |
|---|---|
| 業務効率化を図り、生産性を向上させる | 受注転記に年960時間かかっている。導入後は年200時間に減り、0.36人分の余力が生まれる |
| DXを推進し、競争力を高める | 浮いた時間を見積対応に回し、いまは断っている月8件の引き合いに応じられるようにする |
右側は、書こうとして書けるものではありません。測ってあるから書ける。逆にいえば、申請書が書けないときは、たいてい測れていないだけです。
測ることから始める
補助金の情報を集めるより先に、自分の会社の時間を測る。地味ですが、ここが一番効きます。測れば、減らす候補が見える。減らす候補が見えれば、どの制度に当てはめるかは後から選べます。従業員が数名の会社や個人事業主を対象に含む制度も、公開している212件のうち93件あります。
測り方そのものは、業務の棚卸しの記事に書きました。制度を探すのは、そのあとで十分です。
書き出す時間が取れないときは、AI活用診断に答えるだけでも「何人分」の目安は出ます。減らした先の形を見ておきたければ、ツール・事例の一覧に画面があります。